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東京地方裁判所 平成11年(ワ)28086号 判決 2000年6月28日

原告

千代田火災海上保険株式会社

被告

橋本清

主文

一  被告は、原告に対し、金二一七万五六二二円及びこれに対する平成一〇年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その七を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金三一〇万八〇三二円及びこれに対する平成一〇年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び容易に認定することのできる事実

1  事故の発生

(一) 日時 平成一〇年六月二七日午後七時五五分ころ

(二) 場所 東京都中央区月島一―一四先道路(以下「本件道路」という。)上

(三) 被告車 被告が運転していた普通貨物自動車

(四) 高安車 高安つや子(以下「高安」という。)が所有し、運転していた普通乗用自動車

(五) 事故態様 勝どき橋方面から佃大橋方面に向かって進行していた高安車の右側面が、反対方向に向かう被告車の右前部とこするように衝突した(以下「本件事故」という。)。

2  保険契約

原告は、本件事故当時、高安との間で、高安車を被保険自動車とする自動車総合保険契約(SAP。車両保険特約がある。)を締結していた(甲四)。

3  損害の発生

高安車は、本件事故により、修理費三一〇万八〇三二円を要する損傷を被った(甲三)。

4  求償権の取得

原告は、前記2の保険契約に基づき、平成一〇年八月二一日、高安に対して保険金三一〇万八〇三二円を支払った(甲五)。

二  争点

本件の争点は、本件事故の態様と被告の過失の有無及び程度である。

1  原告の主張

本件事故は、高安が本件道路の佃大橋方面の車線上左端に駐車バイクがあったためこれを避けようと少し中央線寄りに進行していたところ、対向車線を走行してきた被告車が、進行する車線に駐車された四輪車を回避しようと大きく中央線寄りに走行してきたために衝突した。

2  被告の主張

四輪車が勝どき橋方面の車線上に駐車されていたため、被告がその手前で中央に寄って停止したところ、高安車が大きく中央に寄ってかなりの速度で走行してきた結果、衝突に至ったものである。

第三当裁判所の判断

一  本件事故の態様及び被告の責任

1  甲六から八、一一、証人高安つや子の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件道路は勝どき橋方面と佃大橋方面とを結ぶ片側一車線の幅員約七メートルの道路であり、その両側には歩道があり、歩車道の境界としてガードレールが設置されている。四輪車が本件道路上に駐車された場合、この右側を通過しようとする普通乗用車は、その一部が中央線から車両の一部を超えることは避けられないが、駐車車両が自動二輪車であり、かつその駐車位置が歩道上のガードレールに触れる程度の左側端であれば、その右側方を通過しようとする普通乗用車は、中央寄りに進行した場合であっても、中央線を超えないで走行することは可能であると認められる(甲八の各写真)。

(二) 本件事故現場付近の佃大橋方面の車線にはバイクが左側端に歩道上のガードレールに寄りかかるように駐車され(以下「本件駐車バイク」という。)、勝どき橋方面の車線には四輪車が駐車されており(以下「本件駐車車両」という。)、本件道路の幅員を狭めていた状況であった。

(三) 被告は、本件道路を佃大橋方面から勝どき橋方面に向かって走行していた。本件事故現場付近の走行車線上に本件駐車車両を発見したが、対向車線上を高安車が向かってくるのが見えたので本件駐車車両の手前で自車を対向車線に向けるような姿勢で停車させたが、その位置は被告車の車体の一部が中央線を超えるような地点であった。そして停車後に、走行してくる高安車が被告車と衝突した。

(四) 高安は勝どき橋方面から佃大橋方面に向かって時速約四〇キロで走行し、本件事故現場付近に差しかかったが、本件駐車バイクを回避しようとその右側方を時速約二五キロから三〇キロに減速して中央寄りに膨らんで自車線内を走行した。高安は、本件事故現場付近に差しかかる際、対向車線を走行してくる被告車を発見していたが、当然に自車が優先し、安全に通過できると考えてそのまま走行し、本件駐車バイクと本件駐車車両の間を通過する際、中央線を超えた状態で停車する被告車と前示のように衝突した。被告は、本件事故直後本件駐車車両の佃大橋側に被告車を停車させ、高安に事故の弁明をしたが、その際、高安は被告が飲酒状態で運転していたことを知った。

(五) 高安は、本件事故時、被告車が走行中であった旨証言するが、高安はその時点で時速二五キロから三〇キロで走行する車両を運転していたこと、本件事故が夜に発生したものであること、本件事故直後に被告が被告車を停車させた位置が本件駐車車両の佃大橋側であったこと(被告車が本件事故時に走行中であったとすれば、停車位置は同車両の勝どき橋側となるのが合理的である。)からすると、本件事故時の被告車は停止状態にあったと認められるが、被告車が走行してくる状況に係る高安の証言内容に照らすと、本件事故は、高安車が本件事故現場付近を通過する直前に、被告車の車体の一部が中央線を超えて高安車の進路を妨害するような状態で停車したために発生したと認めることができる。

2  以上の事実を総合すると、本件事故は、停車していた被告車に原告車が衝突した態様となってはいるものの、高安車が自車線内を安全に走行しようとする直前に同車線内に車体の一部を侵入させ、高安車の安全な進行を妨害する状態を作り出した被告に主たる責任があるといわなければならないが、他方、高安も、本件駐車車両と本件駐車バイクにより本件道路が狭隘になっていると認識していたのであるから、いかに自車線内を走行していたとはいえ、本件事故現場付近を通過する際には、徐行の程度にまで減速し、対向車と安全にすれ違うように十分に配慮する運転方法をとるべきであったといえ、本件事故発生の責任の一端は、高安にもあったものと認めるのが合理的である。そして、その責任割合については、上記の点を総合的に考慮し、被告七、高安三とするのが相当である。

二  結論

よって、原告の求償金請求は、被告に対し、金二一七万五六二二円(請求額元本の七割)及びこれに対する平成一〇年八月二二日(保険金支払日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 渡邉和義)

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